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鯖街道と私(その1)

negoritouge

第1章 

はじまりは雪の峠だった。

 4月だというのに標高800mの根来峠の山道は白い雪に覆われている。
登山靴で足元を固めているが雪の冷たさが爪先から這い上がってくる。吐く
息は色いが、しかし春の息吹がどことなく感じられる日であった。本日のパ
ーティは私と「鯖親父」さん、そして小学校教員の「たにせん」さんの3人
だった。子供の頃には登山好きの父に連れられ、よく山登りに行ったものだ。
しかし子供心に山登りなぞ楽しくなく、父があれこれ山の薀蓄を話してくれ
ても上の空だった思い出がよみがえってきた。いつしか自分はその頃の父親
の年齢になっていた。不思議と今の自分には山登りが心地よく感じるように
なっている。それは理屈ぬきだろうな。

 息をあえがせながら峠にたどりつくと、ザラメ状態の雪が固く積もってい
るが、滋賀県側に降りるにしたがって雪も消え、景色は初春の様相を呈して
くる。よもやと思って道端の雪をどけてみると、フキノトウが顔をだしてい
る。同行のたにせんさんに「ほら、フキノトウが顔を出しているよ。」都会
育ちの彼は私よりもずいぶんと年かさなのだが、フキノトウが地面から顔を
だすことが想像の範疇を超えていたらしい。いぶかしげな顔をして薄緑色の
それを見つめている。「天ぷらとか味噌和えにするとおいしいよ。」と教え
たついでに、2,3個つまんでビニール袋に入れてやる。さらに降ると雪も
消え、崖の脇にはタラノメが若々しい色彩で芽吹いている。「ほら、タラノ
メの芽があんなに出ているよ。」「…?」「山菜の王様で、天ぷらには高級
食材だよ。」「!」今度は彼は積極的に採取を始める。崖が怖いといってい
たのに、自ら崖を降りて一生懸命採取している。「棘に気をつけてね。」

 ふもと近くになると、そこは春だ。蕗の葉が繁っている。初春と春を同時
に味わうことができた。山桜も咲き始めている。ふもとにある営林署の管理
舎には「小浜山の会」の長昭氏が迎えに来ていて、そこから彼の車で朽木を
抜けて熊川宿に立ち寄り茶店で葛湯を飲む。同行の鯖親父さんは、鯖街道の
由来とか宿場町の事を色々話してくれるが、外は冷たい雨がそぼ降り、寒い
身体を葛湯で温めることに専念していて、人事のように聞いていた。

 その日の行程の終わりは、小浜市いづみ町商店街の食堂だった。刺身定食
を食べながら、鯖親父さんが鯖街道を今度個人で行いたいんだが、頼れる人
がなかなかいないのです。と語り始めた。私はその時鯖親父さんの願うこと
が解っていたのだが、なかなか「はい、手伝わせていただきます。」とは言
い出せなかった。

 すると黙って話を聞いていた長昭さんが、「鯖親父さんはあんたたちに手
伝ってほしいといっているんだ!」と一喝した。そう、その瞬間が私と鯖街
道キャンプウオークとの長いつきあいの始まりだった。当時はパソコン通信
華やかなりし頃で、大手のニフティのフォーラム(会議室)に、「日本父親学
会」という、くもん子ども研究所主催のフォーラムがあり、そこはお父さん達
が集まってワイワイガヤガヤ楽しく子育てや趣味、グチや悩みを楽しく語り
あう場所で、私も参加させてもらい、毎日楽しく日本全国のお父さん達と語
り合っていた。

 その中にある「髭親父さんの喫茶店」管理人の鯖親父さんとは、書き込む
文章だけでもその魅力的な人柄が窺え、会議室の初対面から不思議と掛け合
い漫才ができる間柄で、親しくお付き合いさせてもらっていた。

 その頃の私は、裏京都市の身体障害者センターが主催する「裏京都市身体
障害者アメリカ西海岸ツアー」というイベントに医療ボランティアとして2
度ほど参加しており、公私共に忙しく過ごしていた時期だった。同じ時期、
くもん子ども研究所の所長の「ヒゲ先生」が立ち上げた「鯖街道キャンプウ
オーク」というのがあり、京都市内から福井県小浜市まで、古道である鯖街
道を2泊3日かけて子ども達が歩くというイベントが行われていた。鯖親父
さんは公文の教師として、そのイベントを支えていた。

 日本父親学会の会議室でも鯖街道キャンプウオークのことについて語られ
ていたのだが、その当時の私には障害者ツアーのほうがウエイトが高く、は
っきり言うと興味がなく、語られていても「ああ、ご苦労さまですね」程度
従って、くもん子ども研究所が、予算緊縮の関係で鯖街道キャンプウオーク
を終了するということも異世界の話だったような気がする。

 ある冬の日、鯖親父さんから鯖街道キャンプウオークの過去の文集と、ビ
デオテープがどっさりと送られて来た。観てみると、子ども達、父兄たちに
強く影響を与えている行事だなあ…というのが印象だった。やがて年が明け、
4月になって鯖親父さんから鯖街道の下見に行きたいので一緒に来てくれ、
という話があり、雪の残る山登りになったという訳です。
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非公開コメント

そうやったな

12年前ですね。
そこでより親しくなっていくのですよね。
改めて文字にすると
また違った感覚ですね

ですよね

このへんで記録に残しておこうかと・・・
プロフィール

おきらく道場主

Author:おきらく道場主
柔道弐段剣道弐段腹参段のあやしい絵描きのおやじです。

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