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拇趾反張女仏

拇趾反張女仏

渡辺淳一の短編小説です。

若い頃にこの小説を読んで「バビンスキー反射」を勉強しました。
作者は医師であるため、医学的根拠がしっかりしており
医学小説での設定、描写に無理がなく、とても勉強になります。

バビンスキー反射とは、
脊髄損傷や脳溢血などで半身麻痺になった際の脊髄権反射を調べるため、
脚の裏側の外側を踵から趾先に向かって掻き揚げると
健常人ならば趾を縮めますが、
前述の原因で脳や脊髄の中枢の神経が冒されている場合には
拇趾は甲の方に反り返り、やや開き気味になり、
さらに膝が軽く曲がるのです。
bosihantyou01.jpg

フランスの医師ジョセフ・バビンスキーによってこの反射が19世紀に確認され、
彼の名がつけられました。
彼はスラブ系のフランス人なんかねえ?

閑話休題

赤ちゃんの拇趾にも同じような反応が見られます。

これは、まだ神経系が未発達のためで、
生理的バビンスキー反射といいます。
個人差はありますが遅くとも2歳頃までに消失するようです。
2歳になれば運動陰機能、中枢神経が発達するので、
2歳を過ぎても消失しない場合は、錐体路障害を疑います。

聖母子画にもこのような表現が残されていますね。
bosihantyou04.jpg


産まれたばかりの孫の拇趾を見たら、おお、跳ね上がっているぞ!



さて本題

この物語では女性のエクスタシーと十一面観音様の関連について描かれています。

奈良法華寺の国宝十一面観音立像の脚
bosihantyou02.jpg
右足の膝を軽く曲げ、斜め横を向いています。
そして拇趾が反っているのが焦点になっています。

膝を軽く曲げ、拇趾を反らしているのはバビンスキー反射そのものです。
bosihantyou03.jpg

像にみなぎる緊張感、静から動に移る一瞬を表現したのでしょうか。
中枢神経の異常を表したものではないのではないか。
他の観音立像ではこういった表現はない・・・ように思います。

仏像三十二相八十種好にもこれはありません。
あえて言うなら八十種好 其の二十一に、
「容儀備足:容貌と立ち居振る舞いが美しい」
う~ん、これは苦しいなあ。

ダイナミックな躍動感を現わす仏像は
金剛力士とか四天王のような天部に属する方々で、
如来とか菩薩は静かで落ち着いた雰囲気を表す。
拇趾だけを跳ね上げる表現がなんとも不自然です。


法華寺の十一面観音像のモデルは光明皇后だそうです。
非田院や施薬院などを作り、民の垢も流してやったという
優しく慈しみ深く、美しい人物であったそうな。

仏像を彫った仏師はガンダーラから遣わされた問答師といわれています。
どんな気持ちを込めてこの像を彫ったんでしょうか。



セックスの際に女性がオーガズムを感じるくらいの興奮状態になると
一時的に精神・神経回路が狂い、平常時には絶対起こる事のない
バビンスキー反射が起こると言われています。
これ、自分では確認した事がないのが残念な事です。

bosihantyou05.jpg
浮世絵にもこの描写があります。
喜多川歌麿「願いの糸口」
花魁が男に背を向け、細めた目で見ている拇趾の先が反り返っています。
生身の人間にも、天女や仏と同じになる瞬間があり、
このときすべての神経が麻痺してしまう。
この瞬間とは、エクスタシーのことか。


美貌の光明皇后に懸想した仏師が、その瞬間を想像しながら
彫ることによってその想いを叶えていたのかもしれません。


二十代の頃にこの物語を読んでからずっとずっと心の中に
バビンスキー反射と拇趾反張女仏が住み着いていました。
そして孫の拇趾を見て、またぞろ出てきたのです。


この考えは仏像を観音菩薩を冒瀆する行為になるかもしれません。
不愉快と感じられた方がおられたら、ひたすら申し訳ありません。

しかし、仏師の想いが仏像の造形に顕れ、
千年を経た今日でもその想いを感じ取ることができると思うと
また格別な気持ちになるのは自分だけでしょうか。


法華寺平成31年春の御本尊御開帳は3月20日~4月7日まで
今度行ってみようと考えております。
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Author:おきらく道場主
柔道弐段剣道弐段腹参段のあやしい絵描きのおやじです。

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